読みもの
簿記2級はFP2級の近道になるか。公式の試験範囲を突き合わせたら、重なりは4論点だけだった
「簿記を持っているならFPも取りやすい」とよく言われます。本当にそうか、言われている根拠を確かめるために、日商簿記2級の出題区分表とFP2級 学科の試験範囲(6分野の細目)を同じ論点表で突き合わせました。結果は、FP2級側の4+0+18論点のうち、簿記2級で同等以上に学んでいるのは4論点、新しく学ぶのが18論点。論点カバー率は18%です。簿記2級はFP2級の「近道」ではなく、法人の決算書と税の部分だけを先に済ませた状態だと言えます。
対照の仕方
簿記側は日本商工会議所の商工会議所簿記検定試験出題区分表(商業簿記・会計学/工業簿記・原価計算。2022年4月1日施行・2026年度試験まで適用)、FP側は日本FP協会の2級 試験範囲(学科試験の6分野 A〜F とその細目)。取得日はいずれも2026年10月6日です。論点ごとに各試験で出る深さを 0(範囲外)/1(用語・考え方)/2(計算・処理)/3(応用・判断)で判定しました。FPの細目は項目名だけが公表されているため、計算を含む分野を2、制度・用語の理解を1とする基準で運営が判定し、各行に根拠の細目名を付けています。
簿記2級で同等以上に学んでいる4論点
| 論点 | 対象での深さ | 手持ちの最大深さ | 対象シラバスの参照 |
|---|---|---|---|
| 損益計算書・貸借対照表の構造と区分表示 | 1 | 3 | D タックスプランニング > 決算書と法人税申告書 |
| 税務会計(益金・損金・課税所得・税効果) | 1 | 2 | D タックスプランニング > 法人税/法人住民税/法人事業税/消費税/会社、役員間および会社間の税務 |
| 資金調達の形態(直接・間接金融、自己・他人資本、企業間信用、リース) | 1 | 1 | A ライフプランニングと資金計画 > 中小法人の資金計画 |
| デリバティブとリスク管理(オプション・先物・為替予約・スワップ) | 1 | 1 | C 金融資産運用 > 金融派生商品/外貨建商品 |
- 決算書と法人税申告書(D-15)・法人税等(D-10〜14): FP2級で3級に無い細目です。簿記2級は損益計算書・貸借対照表を報告式で作り、課税所得の算定と税効果会計まで扱うので、FP2級の「決算書を読む」「法人税の仕組みを知る」は既に深い側から見ることになります。
- 中小法人の資金計画(A-9)のうち調達の形態: 簿記2級のリース取引(借手側)が接点です。ただし調達手段の比較そのものは簿記にはありません。
- 金融派生商品・外貨建商品(C-6, C-8): 簿記2級の外貨建取引(為替予約の振当処理)が接点で、FP2級も用語の理解(1)なので同等です。
新しく学ぶ18論点
| 論点 | 対象での深さ | 手持ちの最大深さ | 対象シラバスの参照 |
|---|---|---|---|
| 資金繰り・運転資金・フリー・キャッシュ・フローの管理 | 1 | 0 | A ライフプランニングと資金計画 > 中小法人の資金計画 |
| 貨幣の時間価値と投資評価(NPV・IRR・回収期間法・会計的利益率法) | 1 | 0 | A ライフプランニングと資金計画 > ライフプランニングの考え方・手法 |
| ポートフォリオ理論と資本市場理論(CAPM・効率的市場) | 1 | 0 | C 金融資産運用 > ポートフォリオ運用 |
| 企業価値・株主価値の評価(DDM・PER・PBR・DCF・マルチプル) | 1 | 0 | C 金融資産運用 > 株式投資 |
| 民法(物権・債権)と不動産取引の法律 | 1 | 0 | E 不動産 > 不動産の取引/不動産に関する法令上の規制 |
| 相続・贈与の法律(民法 相続) | 2 | 0 | F 相続・事業承継 > 贈与と法律/相続と法律 |
| 金融商品取引法・消費者保護・関連法規 | 1 | 0 | C 金融資産運用 > 関連法規/セーフティネット |
| 事業承継(経営承継円滑化法・事業承継対策) | 2 | 0 | F 相続・事業承継 > 事業承継対策/事業と経営 |
| ライフプランニングの考え方・手法・資金計画(FPの倫理・関連法規、ローンとカード) | 2 | 0 | A ライフプランニングと資金計画 > ファイナンシャル・プランニングと倫理/関連法規/ライフプランニングの考え方・手法/ライフプラン策定上の資金計画/ローンとカード |
| 社会保険(健康保険・介護保険・労災・雇用保険)と労働保険・社会保険の届出 | 2 | 0 | A ライフプランニングと資金計画 > 社会保険 |
| 公的年金・企業年金・個人年金と年金の税金 | 2 | 0 | A ライフプランニングと資金計画 > 公的年金/企業年金・個人年金等/年金と税金 |
| リスクマネジメントと保険(生命保険・損害保険・第三分野) | 2 | 0 | B リスク管理 |
| マーケット環境の理解(金利・為替・景気指標) | 1 | 0 | C 金融資産運用 > マーケット環境の理解 |
| 預貯金・投資信託・債券・外貨建商品 | 2 | 0 | C 金融資産運用 > 預貯金・金融類似商品等/投資信託/債券投資/外貨建商品/保険商品 |
| 金融商品と税金・セーフティネット | 1 | 0 | C 金融資産運用 > 金融商品と税金/セーフティネット |
| 所得税・個人住民税・個人事業税(各種所得・損益通算・控除・申告) | 2 | 0 | D タックスプランニング > わが国の税制/所得税の仕組み/各種所得の内容/損益通算/所得控除/税額控除/所得税の申告と納付/個人住民税/個人事業税 |
| 不動産(見方・取引・法令上の規制・税金・賃貸・有効活用・証券化) | 2 | 0 | E 不動産 |
| 相続税・贈与税と財産評価・相続対策 | 2 | 0 | F 相続・事業承継 > 贈与と税金/相続と税金/相続財産の評価/不動産の相続対策/相続と保険の活用 |
FP2級の6分野で言えば、A ライフプランニング・B リスク管理・E 不動産・F 相続・事業承継はまるごと新しく、C 金融資産運用と D タックスプランニングも「個人の側」(投資商品・金融商品の税・所得税)は新しい範囲です。簿記は企業の取引を記録する技術で、FPは個人と家計のお金を扱うので、重なりが小さいのは資格の性格の違いです。
ひとつ注意したいのは所得税(D-2〜9)です。簿記2級の「税金」は法人税・住民税・事業税と消費税の企業側の処理で、個人の所得税の仕組み(所得の分類・損益通算・各種控除)は含みません。「税金は簿記でやった」と思って飛ばすと、FP2級ではそこが丸ごと穴になります。
簿記2級で学んだが、FP2級には出ない16論点
| 論点 | 対象での深さ | 手持ちの最大深さ | 対象シラバスの参照 |
|---|---|---|---|
| 簿記一巡(仕訳・帳簿・試算表・精算表・決算整理・財務諸表の作成) | 0 | 3 | — |
| 企業結合・連結会計(合併・連結決算・のれん) | 0 | 2 | — |
| 原価概念と原価計算の種類・方法(費目別・部門別・製品別) | 0 | 3 | — |
| 標準原価計算と原価差異分析 | 0 | 3 | — |
| 直接原価計算と全部原価計算 | 0 | 3 | — |
| CVP分析(損益分岐点・安全余裕率) | 0 | 2 | — |
| 利益計画(限界利益・貢献利益・プロダクト・ミックス) | 0 | 1 | — |
| 予算・実績差異分析 | 0 | 2 | — |
| 配当・剰余金の処分(配当政策と会計処理) | 0 | 2 | — |
| 有価証券の会計処理(売買目的・満期保有・その他有価証券) | 0 | 3 | — |
| 固定資産の会計(取得・減価償却の方法・除却・圧縮記帳・無形固定資産) | 0 | 3 | — |
| 引当金(貸倒・退職給付・賞与など) | 0 | 3 | — |
| 純資産の会計(資本金・剰余金・株主資本等変動計算書) | 0 | 3 | — |
| 収益認識(履行義務・契約資産・変動対価) | 0 | 2 | — |
| 外貨建取引と換算 | 0 | 2 | — |
| 本支店会計 | 0 | 2 | — |
簿記一巡、原価計算、標準原価、直接原価計算、CVP分析、有価証券・固定資産・引当金・純資産の会計、連結、本支店会計は、FP2級の試験範囲に項目がありません。簿記2級の学習時間の大半はこの表の側にあるので、「簿記2級に合格した=FP2級の半分は済んだ」とはならない、というのが対照表の答えです。
では簿記2級の人はどう学ぶか
- D タックスは「個人の所得税」から: 法人税は済んでいるので、所得の10分類→損益通算→所得控除→税額控除→申告の順に。
- C 金融資産運用は商品知識を細目に沿って: 投資信託の分類、債券の利回り、株式の投資指標(PER・PBR・配当利回り)、外貨建商品、ポートフォリオの期待収益率と標準偏差。簿記で有価証券の「会計処理」は知っているので、「商品としての性質」を足す形です。
- A・B・E・F は FP の本体として最初から: 年金→社会保険→保険→不動産→相続税の順が、制度の理解から計算への積み上げになります。
試験の形式(公式の値)
| 試験 | 形式・時間・合格基準 | 直近の実施 | 出典(取得日) |
|---|---|---|---|
| FP技能検定 2級 学科 | CBT・多肢選択式 60問・120分・合格基準 36点以上(60点満点)・学科のみ 5,700円 | 月単位で通年実施(2026年度の休止期間: 5/24〜31、12/28〜2027/1/5、2027/3/25〜31) | 2級・3級試験要綱(日本FP協会)(2026-10-08)/試験日程(2026-10-06) |
| 日商簿記 2級 | 90分・100点 | 統一試験 第174回 2026年11月15日(日)。ネット試験は通年(2026年11月9日〜18日は施行休止) | 2026年度試験日程カレンダー(日本商工会議所)(2026-10-06) |
手持ちに診断士の科目を加えると、FP2級の「同等以上」は10論点に増えます(差分ツールで確認)。簿記2級だけの場合は こちら。いずれも無料・登録不要です。
出典
- 日本商工会議所「商工会議所簿記検定試験出題区分表」商業簿記・会計学 PDF/工業簿記・原価計算 PDF(取得日 2026-10-06)
- 日本FP協会「2級 試験範囲」 jafp.or.jp/exam/subjects_02/(取得日 2026-10-06)/「2級・3級試験要綱」 jafp.or.jp/exam/outline/3fp.shtml(取得日 2026-10-08)
- 対照表のデータは本サイトの差分ツールと同一(論点48×資格5)。
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